10ページのラプソディ ~とある一つの研究観察~

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 少年を拾った。  それはまるで捨て猫のように段ボール箱の中に横たわっていた。  雨降りの暗い工場跡。幾千もの人間を生産してきた過去の遺産。  稼働しなくなった生産ラインに降注ぐ灰色の雨に少年の頬が濡れる。少年が身動ぐ気配も無い。  彼は此所の製品だろうか?  シリアルナンバーは見当たらない。  生産ラインはもう二度と稼働しない。つまり彼等はもう生まれない。もう、二度と……。  灰色の雨が降注ぐ。  彼は生きているのだろうか……死んでいた方がよいだろう。生きていてもどうせ殺される、製品という運命。その運命からは決して逃れられないのだから。  少年の長い睫毛が落とした影は、焦点の惚けた瞳に愁いの色を添え、蒼白の頬には生気が感じられない。まるで白磁の陶器で出来た人形のようだ。その薄い胸が上下に動く。  彼は呼吸をしている。生きている。瞬きすらしないその瞳には光が無い。しかし、彼は生きている。口を開いて言葉を紡がないが、彼は生きている。雨に打たれていてもピクリとも動かないが、彼は生きている。生きているのだ。  シリアルナンバーがない。つまりこれは誰の所有物でもない。私が持ち帰っても問題は無い。私は少年を抱えて運び出す。体温が低い、冷たい。少年は一言も喋らない。  無慈悲な雨が降注ぐ。  私は廃屋と化した工場跡を後にする。  最後の少年を連れて……。
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