第一話

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   そういえば俺が貰ったのは、紅葉からの義理チョコ一つだけだったことを思い出して少し落ち込んでいると、 「桔平、何してるの、早く行くよ?」  いつの間にか、女子の輪を抜け出していた紅葉が目の前にいた。というか紅葉が抜けた途端に解散していったようだが。 「あ、あぁ。わかってるよ」  そう言って鞄を持ち、紅葉に向き直ろうとした。 「ほら、遅い遅い、早くしないと迷惑でしょ」 「ぅおっ・・・・・・!?」  したのだが、それよりも早く紅葉に左手を取られてしまった。  俺の手首を掴む手のひらの柔らかさに驚くのと同時に、そのまま引き摺るようにして連れられて行く。  腕が捻れているせいで、これがかなり痛い。 「い、痛いって手を離せ、逃げないって約束してやるから」 「ダメ。桔平は放って置くと、どっかに行っちゃうから」  紅葉、たぶんそれは小さい頃の話だと思う。最近じゃ、休日だって家で本を読んでるか、ゲームしてるかのどっちかだから。  あ、そろそろ腕が限界になってきた・・・・・・たしか腕が壊死して亡くなった人がいるってニュースがあったよな・・・・・・ 「着いたよ」  もうそろそろ意識が飛ぶんじゃないかって寸前、左手はようやく解放された。  まだ鈍い痛みが残ってはいるが、無事に済んだようで何よりだ。
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