19人が本棚に入れています
本棚に追加
少し読み進める。
二人は花見の約束をしている。里香が小さな子どものようにはしゃいで、裕一が得意気に頷く。
本当に些細なことだ。何にも特別なことじゃない。俺たちが普段交わす言葉との差異なんて、ほとんど有りはしない。
なのにこの会話はひどく綺麗で、俺たちからはとても遠いものに思えた。
そういう世界なんだ。この小説は。読んでいると、純粋な想いっていうやつを痛いほどに感じる。
何せ、この二人には明日すら無いかもしれない。下手をすれば1時間後、10分後、もしかすると今すぐにでも時間は途切れてしまうかもしれない状況にあるのだ。
それでも、今は里香も裕一も、もちろん俺でさえもが笑っている。互いにそのことをよく理解した上で小さな肩を並べている。それを眺めている。
昔にこんなことがあった。小学校の低学年くらいの頃だったろうか。俺は友達数人と一緒に“探検”と称して学校近くの森に入った。
オナモミの種をぶつけ合ったりしながら、何時間も遊び続けた。森は木が繁っていたからか、昼頃からずっと薄暗かったから、太陽がいつ沈むかもわからないでいた。
それなのに、夢中な俺たちは笑い続けて、遊び続けた。
気が付かないうちに太陽は沈んでしまって、暗くなった中で俺たちは大声で泣いた。
そのときは幸いにも森に入ったすぐの場所だったから、近所の人に助けられて何事もなく済んだ。
けど・・・・・・この二人はどうだろう。俺には二人のいる場所がわからない。
最初のコメントを投稿しよう!