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少なくとも里香のいるところはもっとずっと奥だ。裕一はまだそこまで行っていない。
二人の肩は触れ合い、互いの吐息すら感じられる距離にいるにも関わらず、二人のいる場所はとても遠い。
太陽の位置は木々が隠し続けている。木漏れ日すらあやふやで、雲の流れで時折暗くなる。そんなところに、二人はいるのだろう。
――理不尽じゃないか――
そう思う。こんなに複雑な場所でしか一緒にいられないなんて。
雲のちょっとした動きにすら怯えなければならないなんて。
――理不尽じゃないか――
何度だってそう思った。無駄だとわかっているのに、そう思わずにはいられなかった。
もし二人が普通に出会い、普通に仲良くなり、普通に恋に落ちたら・・・・・・きっと話しかけるのは裕一だろう。きっと里香が勉強を見てやっていただろう。きっと手を繋いで街を歩いていただろう。
なんて、ただの夢想だ。
動きようがないんだ。ここに書き記されている。二人の歩んだ数歩が、二人が歩まなければならない細い道が。
それでも二人は笑っている。不思議な世界だ。一見するとこの世界は不幸に満ちていて、避けようのない終わりを確かに示し続けているのに。
俺はどうしても憧れてしまうんだ。
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