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そんな『世界』を包み込んでいる俺の両手。それは細く、小さく、何かを繋ぎ留めておくには、あまりにも力に欠けている。
里香のように小さな手で自分を繋ぎとめておくことも出来ない、情けない手だ。
なんてことを考えながら、そろそろ片付けようと鞄に手を伸ばしたときだ。
カンカンカンと、小気味の良い音で非常階段を鳴らしながら、誰かが屋上へと上がって来るのが聞こえた。
誰かと言っても、この足音だけで誰かなんてことはすぐにわかる。
予鈴まであと5分ほどというこの時間に、本来なら立ち入りを禁止されている屋上に足を運ぶような奴は俺の知る限り一人しかいない。
階段を上る音が途絶えて、代わりにコンクリートを踏む音が近づいてくる。足音が止むと、給水タンク横からよく見知った顔がひょっこりと出て来た。やはり予想通りだ。
「またここにいたんだ」
タンクの影から出てきて制服の乱れを直すと、俺の幼なじみはそう言った。
僅かに上気した頬は、ほんのりと赤みがかっているが、汗もかいていなければ、息も切らしていない。
元々運動が得意なこともあって、これくらいではさほど疲れたりはしないようだ。
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