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それは、響介にとって一種の防御だった。あってはならないことを否定して、どこがいけない? そうでなければ、響介はまともに生活できていないというのに。それでも憶えていろと言うのならば、それは怒りのためだ。響介が父親に怒りをぶつけるためだ。
「怒っていいんだぞ。恥ずかしがっていい。お前は悪くないんだ……」
腕の中で、響介の嗚咽が漏れた。悔しそうに、拳で胸を叩いている。
「泣いて、いいんだ」
終わりだと思った。これから、響介と二人で歩んでいけると。しかし、これは始まりに過ぎなかった。響介の心の傷が深いものであることを知るのは、もう少し先のことだ。
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