フェアリー・テイルみたいに

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        二    ああ、視界がぼやけている。泣いているのかもしれない。なのに、自分の感情が分からなかった。苦しいような気もするし、悲しいようにも思えた。どちらとも言えない。夢のせいか、感情が麻痺している――衝撃を受けたのかもしれないが――うまく物事を考えることが出来ない。その夢は、あまりにも酷だった。過去にそういうことがあったのは理解しているつもりなのだが、《それ》が真実なのだと信じることが出来ずにいる。きっとそれは、思い出したくない記憶だからなのだろう。    例えば、僕が幼い頃父親から性的虐待を受けていなければ、こんなにも隆行を愛しはしなかっただろう。そして、憎みもしなかった筈だ。僕を蝕むのは、忘れ去られた記憶。思い出したくない、記憶。 「――駄目だ……苦し……」  僕は、矛盾と葛藤に負けそうになった。嫌だ。そんなこと、思いたくないのに――  動悸と頭痛が襲ってくる。僕は、痛みのあまり意識を手放した。
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