フェアリー・テイルみたいに

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        一    片桐響介は、悲鳴を上げて目を覚ました。父親に襲われる夢がリアルで、あまりにも強烈過ぎたのだろう。まだ、灰色の眼は空を彷徨っていた。現実を知覚できていない。夢だった、と安堵する余裕もないようだ。亜麻色の髪は、汗でひどく濡れている。 「響介?」  落合隆行が、響介の目の前で手をかざし、反応しないのを見て、手を叩く。すると、暗示を解かれた時のように響介は体を震わせ、まばたきをした。息をするのも忘れていたのだろうか。していなかった分、激しく呼吸している。苦しそうに両手で顔を覆い、蹲った。 「どうして、こんなことを」  あってはいけないことだ、と一人呟く。 「何があった」  隆行は優しく訊いた。響介の髪を撫でる。そっと抱き寄せ、父親のように振舞った。響介も、子供のように親指を咥えて隆行に抱き付いている。 「夢を、見たんだ」  怯えながら、響介は囁くように言った。誰にも聞かれてはいけない、といったように。 「どんな夢?」  怯えなくてもいい、ゆっくりでいいから。そう、額を当てて、見つめ合う。しかし、響介はその優しさにさえ甘えることが出来ずに、泣きながら頭を振った。
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