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「何かお探しですか?」
ぼーっとしていた所為か、老父母の質問責めから解放されたからか。僕は若い店員に声を掛けられた。
誰かへのプレゼントを買いに来たとでも思ったのだろう。それともさ迷っていた視線から鴨だと思われたのか。
どのみち、僕はあげる相手をついさっき無くしたんだけども。
「いいえ。少し眺めていただけですから」
そうですか、と会釈して踵を返した店員は、再び老父母に捕まっていた。
口の端を引き攣らせながらもきちんと対応している店員の姿を見ていると、この場に僕が居ることが申し訳なく思えてきて、いそいそと人の間を縫って店から抜け出す。
僕が抜けた後も、店は変わりなく賑やかだった。
流れる音楽は、クリスマスと全く関係のない流行りのラブバラードに。人の数は先にもまして増えていた。
性懲りもなく人の波に揺られていた僕は、商店街から出てしまった。正確には、商店街の中程に設置された広い緑地スペースに出たのだけど。
僕は円形に芝った緑の中心に植えられた、大きな木を囲うように置かれているベンチの一つに腰掛ける。
隣に空いた一人分のスペースに、笑う彼女の幻想が見えた。
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