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木のベンチからぼんやりと視線を向けると、緑地スペースを囲うように立っている鉄の棒が目に入った。
前に来た時は、あんなモノはなかった気がする。注意深く周りを見ていた記憶もないけど。
電柱程度の高さの鈍色の棒は、先端に何か丸い物体をくっつけていた。
「ねぇ、アレは何だと思――」
ほぼ無意識に口を開き、顔を横に向けても、そこに君の姿はなくて。
嗚呼、僕は思っていたより君を頼りにしていたんだなぁ、と。今更なことに再び気付かされただけだった。
大切なコトには失なってから気付く。誰が言ったのかは知らないけど、失わないとこの言葉も実感出来ない訳で。
膨れ上がる彼女への想いを、僕は苦笑してごまかすことしかできなかった。
どれくらい、ぼーっとしていたのだろうか。僕が見上げた灰色の空は、夜の帳に包まれる寸前だった。腕時計で確認してみるともうすぐ午後5時といったところ。3時間はほうけていたことになる。
指先は氷のように冷たくなり、唇も乾いてぱりぱりになっていた。
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