ぼやけたホワイトクリスマス

13/19
前へ
/20ページ
次へ
   周りの様子も、僕が座った時とは変わっていた。  人が、多い。それなりの大きさがある緑地だが、腕を動かせは隣の人に当たってしまうほどの密度である。  しかも、そのほとんどがカップル。他には子連れの夫婦と女子高生の一団くらいか。  一人ベンチに座っている僕が浮いてないはずもなく、すさまじい疎外感に襲われた。けれども、動こうとも思えなかった。  突然、どこかから甲高い悲鳴が聞こえた。いや、嬉声か。  なんだろうかと捻ろうとした僕の首に小さな刺激が走る。  反射的に首を押さえると、微かに濡れていた。ぽつぽつとした冷たい刺激は、首だけでなく外気に晒された各所に走りだす。  ――雪だ。  薄暗い濁った空から、白い結晶がふらふらと落ちてくる。  本当のホワイトクリスマスだ、と驚いたような声が耳に残った。  ……どうせ降るなら、もっと早くから降って欲しかった。 「――ははっ」  時の神様か天候の神様かに嫌われた自分を、小さく笑う。  電話しようかと思ったけれど、別れの言葉を思い出すと、どうしてもボタンを押すことが出来なかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加