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周りの様子も、僕が座った時とは変わっていた。
人が、多い。それなりの大きさがある緑地だが、腕を動かせは隣の人に当たってしまうほどの密度である。
しかも、そのほとんどがカップル。他には子連れの夫婦と女子高生の一団くらいか。
一人ベンチに座っている僕が浮いてないはずもなく、すさまじい疎外感に襲われた。けれども、動こうとも思えなかった。
突然、どこかから甲高い悲鳴が聞こえた。いや、嬉声か。
なんだろうかと捻ろうとした僕の首に小さな刺激が走る。
反射的に首を押さえると、微かに濡れていた。ぽつぽつとした冷たい刺激は、首だけでなく外気に晒された各所に走りだす。
――雪だ。
薄暗い濁った空から、白い結晶がふらふらと落ちてくる。
本当のホワイトクリスマスだ、と驚いたような声が耳に残った。
……どうせ降るなら、もっと早くから降って欲しかった。
「――ははっ」
時の神様か天候の神様かに嫌われた自分を、小さく笑う。
電話しようかと思ったけれど、別れの言葉を思い出すと、どうしてもボタンを押すことが出来なかった。
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