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「これ、クリスマスプレゼントよ。あなたのイメージとあまりにもピッタリだったの」
ふんわりとした笑顔と、普段より幾分快活な声とともに差し出されたのは、ベージュとチャコールグレーのチェック模様がかわいらしいヤカンだった。
それはすぐに底が焦げ付いてしまって、わずか3ヶ月で使えなくなってしまったけれど。
その3ヶ月間は、たかだか湯を沸かすという行為が、とても楽しいものだと思えていた。
今思えば、彼女からのプレゼントだからこそ、意味もなくやかんを火に掛けたりしたのだろう。
当時の僕はそんな簡単なことにさえ気付かずに。
そのやかんの体に貼付けられている値札を見て、僕は目眩を覚えた。
今日は久々のデートだったから、財布の中には結構な金額を入れておいたつもりなんだけど、それでも足りない。
ふと、やかんが使えなくなったことを彼女に伝えた時の光景が頭をよぎった。
「底が焦げて、もう使えなくなっちゃった」
と、暗い調子で――この時は本当に落ち込んでいた。酷使してしまった後悔や、彼女に対する罪悪感とかで――言った僕に、君は笑って、
「形だけの安物だったから、脆かったのね。まぁ、大分使い込んだみたいだけど」
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