ぼやけたホワイトクリスマス

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   これのどこが安物だろうか。情けないことに、彼女の収入は僕よりも多いのだけれども、それでもコレは十分高価な物の部類に入る。  たかがやかんなのに――とは言わない。  彼女は、使用不可の報せを聞いて、一体どんなことを思っていたのだろうか。あの笑顔の裏にはどんな感情が隠れていたのだろうか。  別れてしまった僕には、もうそれを確認する術はない。  それはとても悲しいことで、僕は熱くなった瞼を指で押さえることしか出来なかった。彼女と繋がっていたつもりだった僕は、彼女のことをわかってなどいなかった。  ――わかろうとも、していなかった。  まるで変なものを見るかのように、目を細めて――もともと鋭かったのが、さらに鋭利になった――見据えてきた店主に気圧されるように、僕はよろよろと店を出た。  流れているポップなクリスマスソングは、僕の陰鬱に沈んだ心を慰めようとしているんじゃないかと錯覚する。  その錯覚は、僕の何にでもいいから救ってほしい、という弱い感情故のことであるのは明白で。  自分は彼女に対して何もしてやれなかったのに、自分だけ救って貰おうなんて、なんと滑稽な話だろう。
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