オレンジの憧憬

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「お疲れ様でした」 他校との練習試合に九対〇で圧勝した、ある日の夕方。 彼女はいつもと変らない、凛と澄ました仏頂面で私に挨拶の言葉をかけてきた。 大きなスポーツバッグを下げた小さな肩は上下していて、少々息も上がっている。 グラウンドから続く急な坂道を、ここまで走ってきたのだろうか。 「お疲れ」 本当に疲れていた私は、呟くように返した。 午前中は交流練習と称した、チーム同士の牽制。 午後は練習試合。 地区予選が間近に迫っていることもあり、皆本気だった。 今日は、いつもと同じバッグがやけに重たく感じる。 歩幅の小さい彼女に、私はわざと歩調を合わせてやる。 一日の終わりを全身で感じる、いつもと変わらない帰り道。 真っ赤な夕日は水平線上に留まっている。 道が、山が、町が、こぞって暖色に染まっている。 一日の終わりに差す光は暖かいようでいて、そうではなくて。 疲れきった身体に容赦なく染み込む――そうだ、雨に似てるな。雨もまた、私の疲れを助長する、数ある要因の一つだ。 そんな景色の中を少し歩いたところで、さっきから隣で何か言いたげにしている彼女の方をちらっと見やる。 茜色の横顔は、ぷいと気付かないふりをした。軽く困ってしまうけど、まあよくあることなので気にしないことにする。 なんとなしにまた海へと視線をやると、夕日が沈もうとしていた。
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