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私は、驚いてしまった。その通りだった。
彼女の放り投げたストレートボールの行く先は、私の弱いところ。
脳内で、今日一日のダメなハイライトが蘇る。
私は身動きも出来ず、ピッチャーを取り巻く気迫と、真剣な眼差しに、そうだ、今だって……。
――言葉も出ないじゃないか。
「成績が伸びない、なんてこと、誰にでもあることだと思います。でも先輩には、以前みたいにまた活躍して欲しいんです」
「もう一度ソフトやろうって思ったきっかけは、先輩……だったから」
彼女は一瞬、泣きそうな顔をした。
どうしてこの子は、こんな私に、そんな顔を見せるのか。
「偉そうなこと言って、すみません」
彼女は慌てて頭を下げる。堪えきれなくなったちいさな雫が、アスファルトに染み込んだ。
いつからだったろう――打てないことにばかり執着し出したのは。
今日の試合だって、私一人冷めていた。
気にしていたのは、自分の成績ばかり。
なのにこの子は、自分を見てくれていた。好調のチームの中でひとり、不調に悩み、なかば自暴自棄になろうとしていた私なんかに、手痛い言葉を投げてくれた。
ひねくれた私の心に、小さな火が灯る。
我に返った心の底から、入学した頃のあの気持ちが、再び湧き上がってくるのを感じた。
「次は打つよ。絶対」
私の言葉を聞いて、彼女はやっと頭を上げる。
こんな恥ずかしい台詞を吐いたあとで、彼女の表情を読み取る余裕なんてものはなくて。
私がすぐさま歩き出すと、彼女もまた、私の後に付いてくるのだった。
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