幼なじみはボム女

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ともかく俺は、この幼稚な会話に聞き耳を立てているかも知れないクラスメートたちの誤解を解くことにする。 「あのな、よく聞け、俺はオタクじゃない」 開け放った教室の窓から清々しい風がやってきて、萌の長い髪が風に吹かれる。 始業式には茶髪だったくせに、俺と教師に諭されて素直に直してきたそれは、わざとらしいほどに黒い。 それから、香水よりかキツくない、自然ないい匂いがやんわりと鼻をついた。 萌は窓際の――椅子ではなく机に腰掛けて、俺の力強い否定に反論する。 「だってさ、アニメの話ばっかりするじゃない」 仕方ないだろ、何話していいかわかんねーんだから。 ああ、萌がおとなしくなる話題が一体なんなのか、親切な誰かが教えてくれればいいのに。 もしあるならの話だが。 「俺、イコール、アニメ、イコール、オタクなわけ?」 「あれ、違うの?」 どこで覚えたんだそんな方程式。 このままのこいつをにこにこと社会に送り出してやれるほど、俺は無責任な幼なじみではいられないんだ。 薄々感づいてはいたが、先日決定打ホームランとも言える新事実が発覚した。 皆さんご存知であろう『匿名希望』。萌は彼のこと(いや、彼女か?)を最近まで人の名前だと思っていたバカ女だ。 信じられないだろう。 信じなくてもいい。 俺は信じたくない。 「匿名希望ってひとさあ、いつもハガキ選ばれててすごいと思わない?」……すごいのはお前だよ。 だから俺は、いつもこいつの間違った認識を正してやるのだ。 何か重大な事件に巻き込まれてからでは遅いのだ。 そんな俺が親切で優しい幼なじみ、という認識など萌には一ミリたりとも無いんだろうけど。 よし、俺も少し反論させてもらおう。
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