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【 出逢い 】
「寒い… でも…」
僕は小さい身体をまるめながら路地をうつむき歩いていた
「公園? いや違うな遊具が何も無い」
柵に囲われた芝生のつらなりを眺めながら先に進みはじめる
「あっ 桜だ…」
月に照らされた櫻の花びらは白く輝きを放ち とても眩しく見え 垣間に見える朱色の花芯に彼女と忘却した母の面影を思い出させる
「こんな場所に桜があるなんて」
僕は櫻を見上げながら一言つぶやいた
「おや お客様がいらしたようだね…」
木陰から初老の男がゆっくりと現れ 一言そお囁いた
「えっ…」
「こんばんわ この桜はどうかな 綺麗かな?」
「そっ そうですね きっ綺麗ですよ…」
「そうか 綺麗と言ってくれるのか ありがとう」
普段の僕は初見の人と会話をする事はまず無い その日に限っては話し相手が欲しかったのか お爺さんに対して口を開いていた
「この桜はお爺さんの特別な何かなのですか?」
「あぁ そうだとも とても大切な友人達なんだ」
友人? 僕は病んだ人なのかと一瞬感じたが表情と態度からは優しさと暖かさを感じとる事が出来た
「友達なんですか もう長い付き合いなんですか?」
「そうだな… かれこれ50年以上の付き合いになるかな…
ところで君は 随分と薄着の様だが寒く無いのかな」
「はい 少しだけ…」
「それはいけない 良かったらこれをつけなさい」
お爺さんは自分のマフラーを外すとそっと差し出した
「ありがとう でも あなたが寒く無いですか?」
「大丈夫 それにもうマフラーはいらなくなるんだから
そうだ もしも時間があるのなら この桜の話を聞いていって貰えないかな?」
「いいですよ」
僕がそお答えると 不意に櫻がざわめきを始めた気がした
「そうだな いつの頃から話そうかな…」
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