―― Prologue

2/3
746人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
少年は疾風の如く駆け抜ける。 夕方の茜空から差し込む東日は、薄汚れた窓に輝く。 屈折した光が照らす木製の床は、より深みのある茶色へと変貌を遂げる。 都会の喧騒とは無縁の静謐とした空間に、1羽の鳥が鳴き声を響かせた。 ――キュッ 軽快なスキール音は、あたかも小鳥の囀(サエズ)りのようだ。 翼を持った鳥は、大空に旅立つことを夢見る。 少年は目線を遥か高峰で見下ろす深紅のフープに定めると、深々と屈めた両膝をバネに蹴りあげた。 ――スゥゥゥ…… 強靱な肢体は重量に抗って宙を舞い、小さな翼で羽ばたく――。 次の瞬間、肉付きの良い右腕が抱えたオレンジ色の球体は、林檎色の円に吸い込まれた。 ――ガシャァン! 静寂に終焉を告げる轟音は、鳴り止む術を見つけることもなく、閑散とした空を潤した。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!