1章:ポカポカドン

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1章:ポカポカドン

観自在菩薩行深般若波羅蜜多…… ポク…ポク…ポク…… 「……こら!奈々子!じっとしておきなさい!」 「だってよ…」 どうも、こんなシチュエーションは得意じゃない。 さっきから、足がしびれまくり…… 「もうちょっとで終わるから……」 「……は~い…」 父ちゃんがいなくなって、もう12年。 俺が2歳の時だったから、まるで記憶がない。 さっきから、父ちゃんの遺影に向かって、みんなでお経を唱えてるんだけど、俺にとっちゃ、あんた誰? …みたいな感じ。 いくら、親戚のおじちゃんやおばちゃんたちに「あなたのお父さんはね…」なんて話されても、まったく実感がない。 俺の中では、家族に父ちゃんなんてものが存在せず、あえて言うなら、母ちゃんが父ちゃん。 不謹慎かも知れないけど、しょうがないってもんで…… …にしても、いつ終わるんだ? この13回忌の法要…… さっきから、ずっと意味不明なお経が続いてんだけど…… テレビみたいに、途中でCMなんかがありゃ、まだマシなんだけどさ。 数十分の試練の後、なんとか法要終了。 くぅ~…… 足がしびれて動けない…… 「さあ、奈々子、お坊さんを送らないと… 早く立って……」 「お、おばあちゃん、早く立てって言われても……」 何でみんなは、すぐに立てるんだよ? 「奈々子!」 もぉ~う… 待てったら…… ドンッ! なんだ…? 音のした方をみると、見事に母ちゃんが転んでいた。 「あいたた……」 「も~う… 貴子さん! あなたが転んでどうするの!」 「お、お義母さん、そんな事を言われてもですね……」 ドンッ! また転びやがった。
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