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5章:天真爛漫
明夫はずっと考えていた。
自分の気持ちがどこにあるのか。
ちゃんと貴子に向いているのか。
真剣に自分と向き合って考えていた。
「……明夫さん… 明夫さんったら…」
「…ん?」
「どうしたの? さっきからずっと難しい顔をして…」
「…ん… まあ… 色々と…」
「久しぶりに会ったのに、それはないんじゃない? 最近、ずっと連絡くれなかったし…」
「……連絡… ああ、連絡ね… 最近ちょっと忙しくて…」
あの日以来、明夫は貴子に会ってなかった。
会ってなかったと言うよりも、どんな顔をして会ったら良いのかわからなかったのである。
「……ふ~ん… 忙しいねぇ~…」
明夫の顔を、じろじろ見回す貴子。
「ひょとして、他に好きな子が出来ちゃったとか……」
「ば、バカ言え! そんな事は……」
「だって明夫さん、嘘を付いたら、鼻の穴が広がるし…」
「ひ、広がってなんか…」
慌てて指で鼻を確認する。
「うっそぴょん! 明夫さん、すぐ騙されるんだから~… きゃはは!」
「騙しやがって、この~!」
「そうやって、すぐ叩かないの~! きゃはは…」
「笑うな! 騙しやがって… この~…」
「そう! その顔! その顔が見たかったんだよね~!」
「……顔?」
「そう! その笑顔! やっぱ明夫さんは笑顔の方がカッコイイよ!」
「……ご、ごめん…」
「ほらほら! そうやってまた暗くなっちゃう… せっかく2人でいるんだから、楽しく行かなくっちゃ! ねっ!」
明夫にとって、貴子はまるで太陽だった。
日頃の苦労なんかまったく見せず、明夫に会うときにはいつも笑顔。
天真爛漫
まさに、その言葉がピッタリの女性だった。
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