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「……確か、朝比奈風太君だったわね」
朝比奈風太、それが生徒の名だ。
ゆっくりと視線を上げる町村。そしてはっと息を飲む、呆然とその顔を見つめた。
「朝比奈風太です。宜しく」
「そ、そう、風太君ね……」
戸惑うことなく堂々と頭を下げる風太だが、それでも町村は呆けたままだ。まるで遠い過去を思い出すような虚ろな表情。
「……町村教頭?」
そしてその教師の言葉に我に返った。
「ああ、ごめんなさい。昔の知り合いに似てたから」
「はあ。……それでは始業式の準備等がありますので、私はこれで」
不思議に思う教師だが、朝比奈の身を教頭に託すと、隣の職員室に姿を消していった。
「よくこの高校にいらしたわね。私は教頭の町村。校長先生が入院しているので校長の職務を兼任しているのよ」
「そうですか。それは大変ですね」
「職務ですから」
こうして二人は改めて会話に興じる。町村の台詞から察するに、彼女がこの学校の責任者ということだろう。
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