第一章 引き継がれる意志

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「確か、三年C組の本田太一(ほんだ たいち)君のお宅に居候しているらしいわね」 「はい、遠い親戚で」 「出身は神奈川なのですね。ご家族はお父様だけなのですか」 「はい、俺と親父の二人暮らしでした」 「色々と大変だったでしょう」 「そうでもありませんよ」 「それはなによりです。あなたのクラスは太一君と同じC組になるわ。そしてこちらが担任の広沢(ひろさわ)先生よ」  傍らに佇む教師を手のひらで指し示す町村。 「担任の広沢です。……宜しくね」  それに呼応して広沢が挨拶する。オドオドした態度だ、まだ赴任して日の浅い新任教師に思える。 「宜しくです。朝比奈風太です」  それでも風太は動じない。改めて二人に向き直り、深々と頭を下げて最敬礼する。 「今どき珍く礼儀正しい子ね」  その様子を窺い感慨深げに呟く町田。一方の広沢は困惑した様子だ、風太の真っ直ぐすぎる性格にどう接すればいいか分からないのだろう。 「とにかくホームルームが始まるから、教室に連れていって」 「はい。朝比奈君、ついてきて」  それでも町村の台詞に呼応して、振り返って校長室入り口に進む。風太もそれに続いた。  こうして二人、挨拶を返すと外に退室していった。  ひとり残された町村。眼鏡を外すしておもむろに立ち上がる。窓際に歩み寄ると眼下に広がるグランドに視線を向けた。 『風太君ね。名前だけじゃなく、顔形や雰囲気まで似ているなんて……』  グランドの周りには一面の桜並木が咲き誇っている。かすかに吹き込む風、それに桜吹雪が舞い上がり鮮やかな青空にとけていった__
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