プロローグ

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「あまりムリするなよ、イチ」  市村が席に乗り込むと、サングラスを掛けた男が助言した。 「夢ぇ、見ましてね」  しかし市村はその台詞には答えない。遠くを見つめて、まるで夢見心地に呟くだけだ。 「夢?」 「飛行機の中でね、陽気のせいか暫しうたた寝したんですわ」  こうしてリムジンは、数台の高級車と警察車両を引き連れて走り出す。 「あの頃の、嫌な夢ですわ」  窓から流れる景色を眺める市村。小春日和の暖かい日だった。遠くの方には都心のそびえ立つビル群が浮かぶ。 「学生の頃か」 「不思議ですわ、最近は夢など見る(いとま)なんてなかった。俺は抗争のただ中にいたから、無我夢中で駆け抜けていたから」 「クッ。あれから三十年だ。あの頃は関東制覇なんて、見果てぬ夢を追いかけてたからな」 「確かにあの頃は見果てぬ夢でしたわ。だが今は違う。俺達は関東はおろか、日本国そのものを制覇出来うる術を持ち得ている」 「そうだな」  夢というのはある意味麻薬のような怖さを秘めている。必死に挑んで苦難を乗り越えてそれを現実としても、空腹感は満たされない。新たな夢に魅せられてそれを求めて挑み続けるだけだから。  強欲で獣じみた言い回しだが、それこそが人間らしい生き方とも呼べるだろう。
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