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「夢の中であいつは生き生きしてましたわ」
思考に耽る市村、その脳裏に過るのはかつてのほろ苦い記憶。
「あいつって、学生の頃のあいつか。あいつは死んだんだ、いつまでも思い伏せるな」
「……死んだ。流されて、あっさりとか」
そして漠然と視線をくぐらせる。
「学生っていえば、お前の息子ももうすぐ高校三年だな」
男が話題を逸らすように訊ねた。
「ですね、三年生だ。長いこと会ってないが……」
饒舌だった市村の台詞がやんだ。
「長い人生だ。目的を達成すればおのずと道は拓ける。奴とだってまともに話せる日も来るだろう。それよりこれから先は長い、今日は自宅に帰ってゆっくり休むことだ」
男が市村の肩を叩いた。全てはいたわりからの台詞。
二人は幾多の苦楽を共にした朋友だ、多くを語らずともその思いは理解できる。
「そうですな、俺も歳のせいか物思いに耽るようになっちまいましてね」
それを察し市村の表情に笑みがこぼれた。
「分かりましたわ。“理事長”の意見は尊重させて貰いますわ瀬崎さん」
言って静かに瞼を閉じた__
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