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キィ、キィ、キィ…
木製の椅子が風で揺れる度、軋み声を挙げた。
風に飛ばされた桜の花びらがヒラヒラと窓から入り込み、机の上にソッと降り立った。本の上の埃も、その陽気なそよ風が吹き払っていった。
その風に呼応するかのように、段々と春めいた雰囲気が部屋中に広がっていく。
そんな穏やかさに包まれた時間の中で、彼は語り始めた。
私のことを叱りつけるでもなく、諭すわけでもなく。滔々と、淡々と。
果たして彼は何を思い、何を感じ、何を語るのだろうか。
私には見当が全くつかない。当然だ。
彼が何なのかすら分からないのだ。果たして同じ人種なのかと疑いたくなってしまうことが、しばしばある。
彼は謎そのものなのだ。
その不思議さ故に、私は彼に惹かれてやまないのだろう。未知への挑戦、という観点から言えば、私は学者に近い存在なのかもしれない。
そして、これから起こるであろうことも、【未知】だ。
だから、私の中にはドキドキとワクワクが入り混じっている。
さながら、母親が話してくれる童話を待ちわびる子供のように―――。
彼の独白がゆるりゆるりと始まった。
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