第一章 僕の日常

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  「触んなよ!メムシ!」 「こっちくんなよ!メムシ!」 教室に入って、僕が自分の席に行こうとすると、必ず誰かの声があがる。 みんなは少し面白そうに、僕から逃げたり、 「メムシ菌がうつるぞ!ホラ!きたねー!」 と言って、友達同士で騒ぎ合う。 背が一番大きく、力も一番強い大山くんがクラスの中心だ。 彼を筆頭に、彼にくっつく何人かがいつも周りにいて、僕をはやし立てる。 それを遠巻きに見るようにして、中立の立場を取る子が何人かいる。みんな楽しそうな笑みを浮かべ、その光景を眺めている。 それ以外の男の子達は、どこかで悪いと思っているのか、なるべく目を逸らし、見てないフリをする。 女子は僕のことを見ようとすらしない子と、僕に軽蔑の視線向ける子と半分半分だ。 男の子達は次第に盛り上がり、大山くんがロッカーからサッカーボールを取り出してくると、いつものようにゲームが始まった。 「ホラ!」 ドカッと音がして、僕のお腹にサッカーボールがめり込む。 大山くんはサッカーが巧くて、蹴る力も凄く強い。 当たりどころが悪かったのか、呼吸が苦しい。息が思うように吐けず、思わず膝を床についてしまった。 「お?きいてるぞ?加藤、お前やれよ!」 その言葉を聞くとすぐに、加藤くんがボールを蹴る。今度は腕に当たった。 その次は、中村くん。その次は保井くん。 これは、代わり番こでどんどんサッカーボールを蹴っていくゲームだ。 ターゲットは僕。 教室の後ろのスペースでいつも行われる。 僕は金魚を飼っている水槽の横に立たされ、ちょっと離れたところから皆で蹴って、僕にあてる。 「メムシ菌駆除ゲーム」というらしい。 このゲームに終わりは無くって、エンドレスに続く。 大山くんが飽きるか、休み時間終了のチャイムが鳴ると、初めて終わる。 今日は後者だった。
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