あの子

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夏那の部屋はいたってシンプルなデザインで構成されている。  真っ白な壁に、青や黒を基調としたカーテンやクッション。家具は本棚と学習机、それとピアノだけ。 ピアノ以外は、女の子らしいとは言えない部屋の椅子に夏那は座っていた。  その向かい側のベッドに俺は腰掛け、先ほどまでの作業を尋ねてみた。 「何やってたの?」 「因数分解」 「インスウブンカイ?」 因みに、この時は中一だからね。 夏那はうなづいて、それを見せてくれたけど、ちんぷんかんぷんだ。  それを口にだしてみれば、当然というように頷き、言った。 「中三の数学」 「中三!?なんでまた」 「?数学苦手だから」 「……そーゆーのは苦手って言いません」 色々とずれているこの子に突っ込みつつ、さっきの写メに話をふった。 と、夏那が眉間にしわを寄せた。 「首謀者、だな」 「うん、首謀者。しかも、愉快犯だね」 「たちわるいな。……よし、こいつにはノートは見せてやらない」  いたずらっ子のような笑みを浮かべる夏那。 子供っぽいって思うかも知れないけど、これはかなりの痛手。 夏那のノートを頼って無い奴とか、殆どいないんだから。 哀れだな、サトー。 器用に片側の唇だけあげる夏那を眺めながら俺は思った。 「でもさ」 「ん?」 「なっちゃんにダメージが出るとか、予想して無かった」 いや、予想はしてたか? 心のどっかでは気付いてたはず。 ただ、頭が理解してなかっただけ。 フォロー出来ないとか、幼馴染み失格だな―。 「……腐れ縁なら察せ」 拗ねたようにクッションに顔を埋める夏那にガチあった。 うわ、これヤバい、かも。 普段の学校では見せない、というか、見せたくない、しぐさに俺は思わず突っ伏した。 ヤバいって、これは。 「ゴメン、な」 「何が。涼が謝る事じゃない」 首を緩慢にふる夏那。 どーでも良いっていうような、そんな感覚。 「奴等に期待した事何て無いから」 「なっちゃん、それはヒドいって」 「なにが。自分のやりたい事に進めない奴等になにが期待出来る?勉強じゃなくても、興味がある事やればいいのにな」 呆れたように呟く夏那。 夏那にはあいつらの心情が理解できないから、こうなってるのかも知れない。
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