あの子

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「は?キモ、何勝手にキレてんの」 「俺ら何にもしてねぇっつーの」 「そうそう、自分で言ってこいよな」 「だから、優等生ってやなんだよ」 予想通りの返答ばかり。 だから、いやなんだよなぁ。 「じゃあさ」 何の感情も込めない笑顔を作って、言ってやった。 「俺が完全にキレてるって言ったら?」 今度は空気が凍り付いた。 サトーの表情が固まってる。 わざとらしく首を傾ける。 「あれ、皆どーしたの?」 俺がキレてないとでも? 夏那をそんな目で見られて、指を咥えてるだけだと? はっ、みくびりすぎ。 俺の沸点は結構低いから、ね。 「なっちゃんをからかって楽しいって言ってたよな、サトー」 「それは」  冗談抜きで青くなるサトー。  当然だよな? だって俺のネットワークとお前のネットワークだったら、俺の方がでかいし。  俺にハブられたら、お前の立つ位置なんてないよ?  ……なんて事言ったら、その辺のいじめっこと変わらないか。    だから言わない代わりに、にっこりと笑った。全てを込めて。 「俺の大事な幼馴染み、傷つけないでくれる?マジで腹たった」 震えながら首を縦にふるサトーに、俺は笑顔で追い討ちをかけた。 敵に情けをかけることなかれや。 これ、夏那からの教え。 「なっちゃんからの伝言。もうノートは貸さないって」 面白い程青くなっていくサトーを眺めながら、俺は笑った。 「言ったろ?なっちゃんキレてるって」 無言のままの集団に対し、俺はそのまま言い切った。 「俺もなっちゃんへのお前らの対応、許さないから。お互いにキレてるってこと、よろしく」 最後に、にこっ、と笑って俺はさっさと席に戻ったのだった。 五日後。 夏那が二週間ぶり位に学校に来た。 皆の対応に少し首をひねってたけど、何も言わなかった。 理由が何であれ、それがないならどーでも良いって思ったんだろう。 俺も特に何も言わなかった。 御礼が言われたいわけじゃなかったし、追い払ったのは、実質、夏那の影響力だから。 だから、何も言わない。 ただ、夏那がこちらを見て、めったに見せない満面の笑みを見せてくれた。 それが、何よりの褒美。 これがきっかけで、また良くつるむようになったというのは別の話。
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