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「ったく、しょうがねぇな」
とは言いながら、あまりめんどくさそうではない顔で、彼は立ち上がった。
薄く茶色に染まった、男子にしては長い髪の毛を、ゴムでまとめ、大きなピンで前髪を止めた。
服装は、生徒指導の先生に指導されるほどの乱れ具合。何度注意されても、直さないし、聞こうともしない。先生にとっては、かなり厄介な生徒なんだと思う。
いや、それだけなら厄介ですんだ。
深瀬が”かなり”厄介な理由は、彼の頭が良すぎるという事実。実際、私は、深瀬に数学で一度も勝ったことが無い。あ、物理もか。
数学の時間で見せる、あの閃きには、私は全く太刀打ち出来ない。
受験としての実績を残したい学校側としては、冷遇するわけにはいかないし、かといって、生徒指導という面では厳しく指導しなくちゃいけない、そんなジレンマが、先生達の中で渦巻いている……と、何故か深瀬が教えてくれた。
ともかく、彼は、とても要領が良いってことだ。
まぁ、そんな奴だけど、実態は反発するだけの男子高校生ではなく、面倒見の良い、それでいて、何処か飄々とした一面を持つ、そんな男だった。
高三になって、初めて顔を合わしたが、波長が合ったこともあって、涼共々お世話になっている。
その面倒見のよさを発揮してか、あまり抵抗を示さず、私のに協力してくれた。隣にあった椅子を、涼の正面までもって行き、深瀬はそれに座る。
それを見届け、深瀬には感謝しつつ、私は大学の先生をやっている父から受け取った、原文の、でも父さんの加筆修正、及び解説が入った、英文を取り出した。
確か、期限は三日か。
これを過ぎると、小遣い1000円引きコース。
さっさと終わらせないと。
辞書を取り出し、準備完了。
全訳開始、っと。
父さんの解説を読みながらも、私は訳を進めていく。
向こうの大学の教授の論文らしいから、難しいのは当たり前。
頭を抱え込みながら辞書を開く。
「夏那」
「良いよ。ほっとけ」
涼の声に手を振ってこたえる。
「中野って、近寄りがたいよな」
「優等生ぶってやな感じ~」
「やだやだ、あんな風にはなりたくないよ」
後ろの会話位気付いてる。
ただ、気に留めるのがもったいないだけ。
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