静かな日常が欲しい今日この頃

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 大事ないって伝えるために、涼の方をみて一回うなづけば、うぅ~、と不本意そうな顔をして、りょーかいという風に、渋々うなづき、深瀬の解説を聞きに戻っていった。 そう、それで良い。 また前みたいに、私の事を庇わなくて良いんだよ、涼。 こんなの慣れっこだ。 大きく息を吸い込み、また吐き出す。これで嫌な感情を外にたたき出した。  そして、また英文に目を戻し、辞書へと集中力を傾けた。  周りに聞ける人なんていない。何故って、あてこすりのようだし。  こういうのは、同じ知識量か、それ以上の人に聞かなくちゃ意味が無い。  それ以前に聞くのは禁止なんだよ。  でも、参考程度に、話くらいは聞きたいんだけどな……。 自分で考えろだとさ。 「中野?」  けど、一人いたわ。  そう言えば、深瀬がいたんだ。――にしても、何でここだ?   涼の方を向けば、まだ教科書を握り締め、必死に何かを解いている。多分、今日に出された宿題だ。  周りに女子やら男子やらが群がって、涼を冷やかしているが、それどこではないらしい。  深瀬がここにいることを見ると、涼の疑問は解消されたらしい。  仕事が早いなぁ、と感心したけど。  時計を見て、すぐに自分の感想を取り下げた。    時計の針が、さっきより10分進んでいた。思っていたより、集中してたらしい。  その間に終わらせてたんだ……。それなら、あんまり速くないか。  視線を深瀬に戻す。話すくらいは良い、よね? 父さん。  英語は……、深瀬、得意だったっけ?  そんな疑問を抱いて、心の中で首を捻っていたら、深瀬が自分から覗き込んできた。絶好の機会だったから、何も咎めなかった。  数秒経つと、深瀬は顔を顰めやがった。   「うげぇ……、いつもの宿題か?」 「うん。ヤバいだろ~」 「やべぇ。英文半端ねぇ。何だこれ、二次より難いだろ」  さらに顔をしかめながら、奴は私と同じように英文を読み進めて行く。 「なんだよ、これ……。'実際問題、二酸化炭素と気温の因果関係は見つかっていない'? 何の論文だ……」 「知らないって。父さんが持ってきたんだから」 「お前の親父、娘に助手にでもならせるつもりか?」  父さんの宿題に萎えたのか、序文だけ一通り読んでしまうと、深瀬は大きなため息をついた。  そこまで真剣に考えてくれなくとも……。
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