あいつ

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小さい頃は良かったさ。 回りに遊ぶ奴も居なかったから、あいつがいればこと足りた。 馬鹿だけど、一緒に居れば楽しかったし、安心できた。 何かと浮いてしまう私は、あいつと一緒に居れば、自然に周りに溶け込めたし、浮く事もなかったんだ。 けど、それも中学で終わり。 部活に入れば、小さい頃のようにつるむ事も少なくなった。 つるんでいても、男子からからかわれたり、女子の噂の的になったりと、不愉快な事が続いた。 元々、そう言うのがだいっきらいな私だから、あいつの近くに行くのを避けるようになり、読書に逃げるようになった。 不愉快な声と視線が嫌で、不登校になりかけた事もあった。 「なっちゃんは、そーゆーの嫌いだからなー」 そう言って苦笑しながら、あいつが私の部屋に見舞いにきた事があった。 部屋のドアを開ければ、涼がいた。なんてシチュエーションなんて、そうそう経験したいものじゃない。 ドアを開けたまま、無言で軽く不機嫌になる私を見て、周りは撒いて来たから大丈夫―、と心得たようにVサインをしてたっけ。 慣れたようにベッドに座る涼は、頭を掻きながら、難しい顔をする。 「俺は全く気にしないし、むしろどーでも良いんだけどな」 「私は気にするし、どうでも良くない」 むっとして、向かい側の椅子から応酬する。 それも心得てる涼は、うなづいてみせる。 「ですよね―。うーむ、なっちゃんにダメージが出るなんて予想外だった」 「腐れ縁何だから察せ」 胸に抱き込んだクッションに顔を埋めて、私は涼に言った。 察せるのは、お前だけなんだから。 と、奴は、少し呆れたような顔をしながら、何とも的外れな事を抗議してきた。 「……せめて、幼馴染みとか言ってくれないかな―。……それは良いとしても」 良くないけど、と一人突っ込み、私の方を見てにかっ、と笑った。 「ちょい、どーにかしてくる」
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