あいつ

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それからしばらく、あいつは私のうちには来なくって、でも、メールだけはこまめにやってくる日々が続いた。 家の居間、自分の部屋のベッド、机の上でみるあいつからのメール。 学校であった事。 授業が全く分からなかったという事。 私に泣き付く文章。 変な写メ。 まめだな、と感心しつつも、自主勉強の片手間、机に頬杖をつきながら、ちょこちょこと返信はしていた。 五分以内に返す、あいつの返信の速度には負けるけど。 五日間位続いた、か。 いつも通りに部屋で、音楽を流しながら勉強をしていた。 と、バイブ音を耳が捉えた。 そのまま放っておくが、止む気配は無い。 珍しく、メールではなく、電話のようだった。 不審に思いつつも、ペンを止めて、携帯へ手を伸ばす。 開けてみれば、予想通り『涼』の文字が。 その間もバイブは鳴ったまま。 流石に良心が咎めたので、一応出る事にした。 「もしも……」 思わず閉口した。 バックがぎゃあぎゃあとうるさい。 むっ、として、切ろうかと本気で思案した所、あいつの声が聞こえた。 「なっちゃん!」 大音量。 思わず、耳からケータイを離す。 「……切るよ?」 「だぁ! なんで! ちょ、きらないで!」 「うるさい。料金の無駄だ」 「だってよ! お前ら静かにしてろ」 お前の声も充分でかい。 ほんとに切ってやろうか、と思いながらペンをいじくっていると、ようやく静かになった。 だから、我慢して尋ねる。 「何?」 要件が無いなら切るよ? と、言外に告げると、それを敏感に読み取った奴は、慌てて喋りはじめた。 「もう大丈夫だから」 「?何が」 話の主語が読み取れない。 「学校来ても大丈夫」 ペンが机の下に落ちた。 けど、拾う気にもなれない。 何て言った?こいつ。 「……何故?」 「うん、まぁ、色々ありまして。女子の方も多分大丈夫」 直ぐにピンとした。 あぁ、コイツがなんかやったと言う事か 机の下に転がっているペンに手を伸ばしながら、呟く。 「お節介」 「えぇっ。なっちゃんひどっ」 「あしたは、行くよ」 ぴたっ、と止まった文句を確認し、私は電話を切った。 「ほんとに、お節介だ」 構わず、自分はのうのうと過ごしてればいいものを、私みたいなのに構って、さ。 「準備しよ」 約二週間ぶりに学生鞄を手に取った。
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