あいつ

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二週間ぶりの学校。 いつも通りに本を片手に登校すると、横に気配が。 見なくても分かる。 「涼?どうした?」 「なっちゃん、おはよう。うん、特に用事というものは無いよ―」 「なら、離れてて。また、二の舞は嫌だから」 「大丈夫だって。俺いったじゃんよ」 離れる様子は無い。 さて、どうするか。 走ればまけれるが、後々面倒いから却下。 武力行使に出ても良いが、以下同様。 ……面倒いからいいか。 結局、隣りの存在は無視する事として、新書を読み進める。 こういう時に全く話し掛けてこない姿勢は評価に値すると思う。 30ページは読み進めた頃だろうか。 ふと、顔を上げれば校門が目の前に。 生徒もうじゃうじゃといて、回れ右をして帰りたくなってきた。 「なっちゃん駄目だ」 「ちっ」 思わず舌打ちしたが、もう遅い。 がしっ、と鞄の紐を掴まれていた。 それを置いていけばどうにかなるものの、中身は大事なものばかり。 逃げる事はかなわないか。 観念して歩きだす ――あれ? 視線が、控え目だ。 無いとは言わないが、かなり控え目な感じだ。 ひそひそ話も、あまり聞こえない。 こっそり横の涼の顔を除いてみると、案の定、にっこりと笑っていた。 優しさを欠片にも滲ませない、完璧な笑み。 なるほど、これなら黙りたくなる。
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