あいつ

7/7
前へ
/55ページ
次へ
教室に入り席につくと、隣りの女の子が笑顔で挨拶をくれた。 「おはよう、夏那ちゃん」 「おはよう、鈴」 今まで来なかった事に触れずに、首をかしげて聞いてきた。 「板書の写しいる?今なら無料で貸すよ」 「無料なら借りようかな。今日無い教科だけ貸して」 「ん―、分かった」 余計な気遣いをせず、かと言って必要な事をしてくれるあの子を、私は気に入っていて、一番の友達だって言える。 「はいっ、夏那ちゃん」 「サンキュー。明日返す」 「英語以外は大丈夫だよ?明日ないし」 「ん、大丈夫。帰ったら写すから」 丁寧にノートをしまい、私は席に座った。 鈴は私の隣りに座る。 「大事にされてるね―、夏那ちゃん」 「?何で」 「雪路くん、頑張ってたよ」 「……あいつのせいでもあるんだから、しょうがない」 「夏那ちゃんは厳しいな」 おかしそうに笑う鈴にむすっ、としつつ、私はノートを広げるのだった。 こうやって、何事もなく一日が過ぎていった。 私とあいつの関係はまだ変わっていない。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加