第一章【幸福の前触れ】

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 「駿司くんって中学の時、モテたでしょ?」  「なんで?」  「そんな気、するから。なんていうか…女の子慣れしてる感じ。」  「軽い奴、って思ってる?」  「そっ…そんなこと思ってないよ!ただ、女の子にチヤホヤされてそうだなって。」  「俺なんて全然。あいつのほうが上だろ。」  「あいつ?」  「透馬。運動部だったみたいだし、あのノリじゃあモテるよなー。」  「駿司くんは、部活とかやってなかったの?」  「なぁ、俺には"くん"付けやめてくんない?」  「えっ…でも……」  「普通に駿司って呼び捨てでいいから。」  「うん…駿司く――」  間違って"くん"つけしそうになった私を―― 彼は、人差し指を私の唇に当て食い止めた。  「だから呼び捨て。」  そのときの彼の表情は、とても柔らかく優しい笑みだった。 心が、胸が大きく高鳴った。
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