異界の地にて

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真っ赤な空。 真っ黒な大地。 真っ青な月。 いつだっただろう、こんな異世界なんて夢みたいな場所に飛ばされたのは。 「……故郷が恋しいのか?」 スーツを着込んだ青年、今は私の最愛のヒト。 普通の人とは違うのは、翼が生えている事と、老いない事と、死なない事。 だけど、上辺だけじゃない優しさを持ってた、私が唯一本当に好きになれたヒト。 「ううん……そんなんじゃないんだ」 「だったら……そんなに寂しそうな顔はしないだろう」 切り立った崖に腰掛けて空を見ていた私の隣に、そっと彼が寄り添ってくれる。 彼の翼が私の肩を抱く。 あぁ……ヒトの肌ってこんなに暖かいんだ。 「あ……そうだ」 「何だ?」 一応、用意はしていたバレンタインのチョコレート。 彼に差し出すが、ポカンとしたまま受け取らない。 こっちにバレンタインなんて、そんな習慣は無いんだ。 「今日は私が住んでた世界じゃ……大事なヒトにチョコをあげる日なんだ」 「……そうか。では有り難くもらっておこう」 彼が優しい微笑みを見せてくれたあと、チョコを受け取ってくれた。 そして、崖の下には何やら騒がしい連中が群がる。 「我が宿敵、魔王よ!!今日こそ異世界から来られた我が花嫁を返してもらうぞ!!」 端から見れば、ただのドラクエごっこにしか見えない勇者御一行。 私を取り返しに来たらしいのだが……もう十回目の挑戦。 いい加減、諦めてくれればいいのに。 「さ……今日も元気にヤツらを追い返さないとね」 「そうだな……魔王の勤めは果たさないとな」 凄い力を持った魔王だからって殺そうとする勇者達。 それを毎度軽くあしらう彼。 これじゃ、どっちが悪者かなんて分かりゃしない。 ま……私はご飯でも作りながら彼の帰りを待っていよう。 せわしない世界じゃ、『待つ』楽しさなんて味わえなかったしね。
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