あと一秒……

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「おはよ」 「おっす」 玄関を出ると、いつもとは違うアイツが歩いていた。 2月14日は男共がソワソワしている。 こいつも例外じゃないんだ。 いつもは寝癖なんて直すのも面倒くさがるくせに、今日はきっちりキメている。 「もうすぐ終わりだな……華の高校生活も」 「そうだね……」 もう自由登校なのに、こいつも私も欠かさず学校に行っている。 だから毎朝顔を見るワケで。 「………」 「………」 会話が続かない……。 なぜだろう、いつもはうるさいぐらいに盛り上がってるのに、今日に限って。 「まだ……まだ」 学校に着いて一時間目が始まった。 まだ、まだ今日は始まったばかりだ。 「まだ……まだ……」 二時間目、三時間目、昼休み、放課後。 なんで今日に限ってこんなに時間が過ぎるのが早いんだ。 「さ、帰ろ」 「あ、あのっ!」 アイツが私の席に来た。 チャンスだと思った。 私はチョコを出そうとしたけれど、声を掛けたのはアイツの隣の席にいる大人しい子。 私は机の中からチョコを出せない。 「前から……好きでした!付き合ってください!!」 「えっ?あ……うん」 アイツはチョコを受け取って、彼女になったその人に小さくそう言った。 彼女はよほど嬉しかったのか、ボロボロと泣き始める。 アイツはどうしていいのか分からず、オロオロと私に助けを求めるような目を向けていた。 「じゃ、先に帰ってるね。彼女と二人の方がいいでしょ?」 いつも通り、悪戯っぽい笑みで教室から出てやった。 手には、形の崩れたチョコを握り締めたまま。
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