たった一つのチョコレート

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「今年も一個……か」 毎年の事ではあるが、貰ったチョコレートは一つだけ。 女っ気の無い青春を謳歌している俺にとっては当たり前だが、健全な男子高校生の俺としては少し寂しい。 「ハハ、私のをカウントしてくれるんだねぇ」 「まぁ……一応な」 「ま、ご飯も食べれない子供達なんて山のようにいる世界だ。贅沢は言わん方がいいよ」 そう言って母さんは内職を再開する。 オヤジが死んで、女手一つで俺を育ててくれた尊敬できる母さん。 その男みたいに節くれだった手に目頭が熱くなる。 「ああ、お返しはいらないからね。そんなお金があったら、彼女にでもプレゼントしてやりな」 「彼女なんかいねぇよ……」 ハハ、と笑う母さん。 ゴメン……俺の高校の授業料、毎月ちゃんと払ってくれてるのに勉強できなくて。 いい大学にも受かれなくて。 でも、ちゃんと人間としては生きていけそうだから心配はしないでくれ。 「お返し……か」 勤労感謝の日にしようと思っていたけど繰り上げだ。 ホワイトデーにはマッサージ機と温泉旅行をプレゼントしてやる。 だからせめて……せめて一日だけでも休んでくれ。 俺、知ってるんだ……もう、長くないって。 「さ、私は寝ようかね。たまにはアンタも早く寝な」 母さんは俺に背を向けて寝室に行ってしまった。 俺が小さな頃は強く広い背中だったのに、今は小さく弱々しく感じる。 俺、母さんの子で良かったよ。 だから今は……先に少し泣かせてやってくれ。 俺が泣くと、母さんはいつも困った顔してたもんな。 安心して休めないよな。
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