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夜の闇が、静かに大地を覆う。
ヴァニティと呼ばれた少女が、なにもない部屋で天を仰いだ。
生活感のない部屋。
家具すらも見あたらず、部屋のすみに、洗い替えと思われる衣服が篭に入っているのみ。
「よう。帰ってたのか」
隣の窓から、声が聞こえた。
ヴァニティはまるで聞こえていないかのように反応しない。
それでも、声の主はしゃべり続ける。
「さすがのお前でも、今回は手こずったんじゃないか?」
窓から身を乗り出しながら、ヴァニティに語りかける青年。
意志の強そうな瞳。縦横無尽に立っている赤い髪。
その青年も、漆黒のコートを纏っていた。
ヴァニティのものと同じ作りではあるが、微妙にデザインが違う。
「ま、俺様にとっちゃ…って、おい!」
最後まで聞かず、ヴァニティは部屋に戻り、窓を閉めた。
「っとに、人形みたいな奴だな」
青年も独白し、部屋に戻る。
ヴァニティは部屋に戻るなり服を脱ぎ、シャワー室へと移動した。
コートを纏っている時にはわからなかった、赤いシミが彼女の白い肌にある。
血。
返り血のようだった。
大きな世界の中で、それはほんの小さな出来事。
朝日がゆっくりと大地を照らし、運命の時が近づいていた――。
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