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滝のような雨がざあざあと叩き付ける。
地面をまるで川のように水が流れていく。
彼は壁に背中を預けて水浸しの石畳に力無く座り、金色の瞳でその流れをぼんやり見つめた。
投げ出された足は、皮膚がむけて爪が剥がれ、血まみれになっている。
靴は何処かで無くしてしまった。
慣れてしまって痛みは感じない。
氷のように冷たい雨は、否応無くまだ幼い彼の体力を奪っていく。
手の指先は寒さで紫色に変色し、感覚も無ければ動きもしなかった。
もう立ち上がれそうにない。
立ち上がろうとも思わない。
黒髪が雨に濡れて顔に張り付く。
ずいぶん洗っていなかったから、これで少しは綺麗になったかな、とぼんやり思う。
髪の間から生えた三角形の獣の耳は、水の重さの為かそれとも彼の心情を表していたのか、ぺたりと寝かされていた。
腰の辺りからは、黒い長い尾が、死んだ蛇のようにぐったりと地面に横たわる。
この寒さの中で、ぼろ布も同然の服をたった一枚纏って凍える彼の命の灯は、まもなく消えようとしていた。
のどがかわいた。
おなかがすいた。
そう思い続けてもう何週間になるだろう。
けれど彼にはもう、その欲求を満たす術(すべ)は無い。
ただ、少しだけ首を上に向け、割れた唇を微かに開けて、落ちてくる雨を舐めようとするのが精一杯だった。
次第に瞼が重くなってくる。
遠くから、足音のような幻聴が聞こえてきた。
それから呼び声も。
……女神様の声だ。
やっと、この苦しみから解放される――。
そう思って瞼を閉じた時、
何か暖かいものに包まれて、
体がふわりと浮かんだ気がした。
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