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何度も何度も忘れなければならない事実から目をそらすかのように。
「由紀ー、遅刻しちゃうー」
一階から聞こえた大場の声で、我に返ることが出来た。
ゆっくりとパソコンのスイッチを何もなかったように、無表情を装う。
「いつものことだから気にするな」
高鳴る心臓を2人の待つ、玄関へと向かった。
「メールが来てるのー。メールが来てるのー。早く読んだげてー」
誰もいない部屋の中で、メールを知らせるくま子の声だけが響いた。
「おや、本当にいないんだー。残念だな~」
青年は遠藤家のチャイムを鳴らす。
しかし、何の反応も返ってくることはない。
携帯電話を取り出し、打ち込む。
「今会えなくても、どうせ会えるからいいですかねー」
笑みを浮かべて、空を見上げた。
そこには、うっすらと雲が出てきた空がある。
「暑くも寒くもない良い天気。ちょうどいい日ですねー」
くすくすと笑いながらも何処か見透かすような瞳。
指を鳴らし何かを呼んだ。
しかし、青年以外何も現れる様子もない。
「遠藤 由紀さんか。今会えなくて実に残念ですね」
青年は1人笑いながら家を後にした。
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