雪と故郷と

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雪と故郷と

吐き出す息は白く、僅かに露出した顔は鏡が無いので自分ではわからないが真っ赤になっていることだろう。 ただでさえ道路が凍って滑りやすくなっている上に俺が子供の頃は道に隙間なく敷き詰められたレンガが今ではあちこち抜け落ちていて危ない。 こういう所をきっちり直すのが為政者の仕事じゃないかと思うがお偉いさんには華々しい戴冠式やら食事会の方が大事らしい。無学な俺にはよくわからんが…… あまりの寒さに少しでも外気に触れる面積を狭くしようと一旦立ち止まって白い毛糸で編まれた帽子を引っ張って下に下ろすと雪の塊が空から降ってきた。 かわせると思うか? 残念ながら俺は超人じゃない、今ので服の中に雪が入ってきて鋭い痛みが俺の皮膚の上で暴れ回っている。 どうやら針のように尖った葉を持つ木の枝から今朝降った雪が中途半端に溶けて滑り落ちてきたらしい。 しかし腹立たしいことに今のでやっと故郷に帰ってきた実感が沸いてきた。一ヶ月の長旅を終えて俺はこの国に戻ってきたのだ。image=266745063.jpg
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