卒業式10分前

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時の流れは残酷だ。 こちらがどんなに抗ったって、必死で願ったって、この温かい温室のような場所から出なければならない。 そうして通過儀礼でしかない卒業式と同時に、過酷な社会へと放逐されるのだ。 「大学行っても、友達だよね」 今にも泣き出しそうな顔で訴える友人に、私はくだらないと一蹴した。 本当は、人一倍感じる不安を諫めるように。 学校で過ごした日々が充実したものであればあるほど、新しい生活への不安は大きい。 私にとって、これは感傷的な言葉で表現できるような生温いものではない。 もはやこれは暴力だ。 泣き叫んでも、喚いても、見えない大きな力でねじ伏せられる不安と恐怖。 (ずっと子供でいれたらいいのに……) 厚い雲が張り巡らす灰色の景色を窓から眺め、心の中で呟いた。 将来に、希望がないわけではない。 それでも、今までのアタリマエが、掛け替えのない時間が失われてしまうのは、酷く悲しく寂しいことだ。 これから私の発言や行動は力を持つ。 同時にそこには、自分自身への責任が生まれる。 温かい毛布でくるまれるように、きらきらした宝物を無償で与えられるように、大人に大切に守られることは、もうない。 ここにきて、私は完全に独りになってしまうのだ。  
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