卒業式10分前

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「由佳」 ポン、と肩が叩かれた。 いつの間にか隣には友人が立っている。 「あと10分で卒業式だから、体育館に移動だって」 「あ、……うん」 私は席を立ち、友人について行く。 体育館までは出席番号順に並んで移動だ。当然私は一番後ろ。 前に延びた同級生の列。 この順番で並ぶのも、もう最後だ。 自由ではあるけれど、手綱を取るように大人から見えない束縛を受けていた。 非常識な悪戯も、度が過ぎる我が儘も、安全だとわかっていたから出来たのだ。 私は、弱い。 大人がいなければ全ての行為に臆病になるほどに。 しかし、そうだ。 尊敬する先生も、頼もしい両親も、勿論いけ好かない人たちもみんな、そんな不安な時期を乗り越えてきたのだ。 「六年生、入場」 機械を通した、堅い声が響く。 止まっていた列が進んだ。 大きな拍手。 緊張した同級生の顔。 誇らしそうな先生の笑み。 この学校で最後の花道。 静かに、しっかりと。 まだ不安に揺れる気持ちは変わらないけれど、この場だけは、胸を張って。 私は、体育館へ、卒業式の会場へ、足を踏み出した。  
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