日帰り冒険記

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あの子の事は二人に秘密にして、鞄の中で僕を見つめる狼の子を撫でる。無垢な瞳があの子の綺麗な笑顔とダブって見えた。 あの子はもうこの森には居ないんだし。今更言ってもブレストの冒険心に火をつけ、エリクの頭痛の種を増やすだけだ。それに、二人だけの秘密ってのも悪くない。あんな可愛い子との秘密だなんて、ちょっと恥ずかしくてかなり嬉しい。きっと、幼児誘拐犯には味わえない幸福だ。 「何ニヤニヤしてんだよアル。今日は取りあえず帰ろうぜ」 僕が幸福に浸っているのにもお構いなしに、ブレストがそっけなく言った。辺りはもう薄墨を流したように暗くなり始めている。空には一番星が光っていた。 「今日は帰って、明日また頑張ろうぜ」 「は?…頑張るって何を?」 嫌な予感がして訊き返すと、ブレストはちょっと驚いた顔をして、当然だという様に答えた。 「何をって、バケモン退治。今日はお前の怪我の手当てでいったん帰るけどさ、取りあえずお前んちに泊まって明日はもっとちゃんと支度を整えて…」
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