日帰り冒険記

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やっぱり。僕は思った。それならエリクがこうやってわざわざ僕の家まで訪ねてくるのも解る。僕も思わずため息を吐いてしまった。 その噂のブレスト王子というのは僕の幼馴染で、好奇心と冒険心の固まりの様な人だ。もうすぐ王位継承の時期だというのに、彼の冒険への情熱は尽きない。きっと今回も何か新しい事を思いついて、家出(彼の場合は城出かな)をしたに違いなかった。 それでとばっちりを受けるのが、王室騎士団の小隊長であるこのエリクだった。ブレストとエリクは仲のいい友達同士だし、エリク自身の剣の腕前も達人並みだから、団長さんに探して来いと命令されてしまうのであります(「お前なら王子のやる事ぐらい解るだろう、王子が帰るまでしっかり護衛して来い」これはもはや団長さんの口癖だ)。 もちろん僕にだってとばっちりが来る。ブレストが居なくなると必ず、こんな風にエリクから手伝いを頼まれるんだから。まぁあいつの思考パターンなんかはエリクよりも僕のほうが熟知してるけどさ。何せ出会った頃は同年代なんて僕と彼くらいしか居なかったんだから。ずっと一緒に育ってきたんだもんね。 「今回は何しに行ったの、あの人。」 僕がうんざりして訊くと、エリクも同じようにうんざりした様子で答えた。 「南の森の化け物退治…だそうだ」 言いながら、彼は自分のポケットから小さなメモを取り出した。そこには確かにブレストの綺麗な癖字が並んでいる。ブレストは冒険(みたいな城出)に出るとき、必ずエリクにだけこうやってメモを残すのだ。それはもちろん、彼に(そして引きずられてくる僕にも)手伝えと言っているわけなのです。 メモにはこう書いてある。 『南の森に化け物が出没してるとの事。国民がそんな訳のわからないものに悩まされているのは次期王として見過ごせない。てなわけで、ちょっくら蹴っ飛ばしてやろうと思う。いつもの場所で待ってるから、必ず来いよ。来なかったらお前はクビね。』 「…な~にが、『国民が困ってる』だよ」 僕は思わず苦笑してしまった。
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