日帰り冒険記

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いつもなら半分嫌々で出かけるこの『冒険』も、今日みたいに物凄く暇にしてた日なら割と楽しみに思える。だって格好の暇つぶしだもんね。それに、少なくとも一生懸命描いていた絵を途中で無理矢理切り上げられた時に比べればずっと気分よく出かけられるというものだ。 エリクは相変わらずため息なんか吐いてるけど。 「よぉ、お前ら遅かったじゃん」 ブレストはいつもの場所、つまり街の馬車の待合所…の裏にある、納屋の中で待っていた。しかも上手く藁の中に隠れているから、ぱっと見ただけでは居るようには見えない。それに"王子様"がこんな納屋の中に、おまけに藁にくるまってるなんて誰も考えないし。 「早速行こうぜ、南の森なら上手く行けば一日で帰れる」 紺色のリボンで1つに結わえた自慢の長い銀髪や、普通の剣士に見えるように着込んだ衣服のあちこちに藁をくっつけながら、ブレストは言った。まるで悪戯っ子の様な笑顔を僕らに向けて。 それで、エリクがまた大きなため息を吐いて言う。 「…仰せのままに。ブレスト王子様…」 諦めきったエリクの表情に、ブレストは満足そうに頷いた。 僕らは納屋に繋いである馬を失敬して……なんてことはせずに、のんびりと徒歩で森へと向かった。その森は、城や城下町から歩いてもすぐ近くにある。そう、それこそ化け物退治に出かけても一日で帰って来れるくらいにね。 でも、それだからこそ。そんなに近くにある森の中に化け物が居るだなんて話、どう考えてもかなりうさんくさい。まぁ、ブレストにとってはガセだろうが何だろうが、こうやって城から抜け出す事自体が十分楽しいんだろうけど。
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