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「どんな化け物が出るって話なの?」
歩きながら僕が訊ねると、ブレストは楽しそうに答えた。
「動きが滅茶苦茶速いもんで、誰も見たこと無いらしいけどさ、ここ最近この森を歩いてるやつが頻繁に襲われてるんだと」
「襲われるって…喰われたりするのか!?」
話を横で聞いていたエリクが緊張した面持ちで訊いて来る。こういう時、やっぱりこの人って騎士なんだなと思うね。
ところがブレストは楽しげに笑っている。
「いんや。そんな怖えーもんじゃねぇよ。いきなり後ろから突き飛ばされたり、足かけられて転けせられたりとかさ、可愛いもんだ」
「なにそれ」
うわぁ。呆れた。それってただ単に自分で転んじゃっただけなんじゃないの?突風が吹いてきて小枝がぶつかったとか。
僕はそんなことを思ったけれど、エリクはあくまでも真面目な顔つきで唸った。
「危ないな。もし転んだ先に尖った枝があったり、打ち所が悪かったりしたら『可愛いもん』じゃ済まないぞ」
……なんて真面目なんだ。
それに引き換え、この王子様のなんと不真面目な事。この国の将来は大丈夫なのか、とか一瞬考えてしまいそうになった。なーんちゃって…。
「まっ、とにかく向こうが出てくるまでのんびりハイキングといこうぜ」
気楽な様子でブレストが言う。ホントにマイペースな奴だ。
しかし、確かにその化け物さんが出て来てくれない事にはどうしようもない。けど、何にしても軽装備とはいえ鎧を着た騎士様と、一見剣士に見える王子様、それから何処にでも居るような絵描きが並んでにこにこハイキングだなんて…異様だ。
それが災いしたのかどうなのかは解らないけど、何時までたっても例の化け物さんは一向に現れてはくれなかった。
「出てこないね~」
もう日が少し傾きかけた頃、僕は何気なく呟いた。
「そうだなー」
それに答えるようにブレストが言うと、いきなりその場で立ち止まった。
「何だブレスト。疲れたのか?」
エリクも足を止め、仕方ないなという風に言う。ところがブレストはちっちっと人差し指を振り、ウインクをして見せた。
「いやいや。ちょっとイイコト思いついたわけよ」
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