日帰り冒険記

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ブレストが思いついた『イイコト』とは。 何の事はない、つまりはただの囮作戦だった。 「…で、何で僕が囮なんだよ」 とても光栄なことに、囮に選ばれてしまった僕が頬を膨らませて文句を言っていると、ブレストはまるで当然のことを言うかの様に言ってのけた。 「ばーか。オレとエリクはこんな鎧着ちゃってるんだぜ?あっちもこんなん相手じゃ警戒するに決まってんじゃねーか」 「そうだな、アルは特に武装してないし、弱そうだし…ちょーど良いんじゃないか」 なんて、エリクまでこんな事を言う。僕は当然頭にきて思いっきり言い返した。 「僕だって短剣くらい持ってるよ!それに何!?人のこと弱そうとか何とか言いたい事いってくれるじゃないか!いくら僕が絵描きだからって別に絵筆しか持てない訳じゃないんだぞ!!ブレストと一緒に剣の稽古してた事だってあったんだからな!!」 エリクがたじろいだのでもっと言ってやろうと一歩踏み出したんだけど、そこでブレストが「まーまー」と割って入って来た。 「とにかくな、一般人の格好してるお前が一番適任なの。だいじょうぶだって、ちゃんと見張って助けてやっから」 「…転んで手を挫いて筆が持てなくなったらどうしてくれるんだよ。僕が絵を描いてるのは遊びなんかじゃないんだぞ」 「俺を誰だと思ってんの?王子様だぜ?名医くらいいっくらでも紹介してやるって」 とか何とか色々言いあいをして。 結局、僕が囮をする事になってしまった。ブレストの奴、ホントなら箱入り王子の癖に口がうますぎる。一体何処で覚えてきたんだろうか。 まぁいいや。僕が絵を描けなくなったら目玉が飛び出るくらい慰謝料を請求して、一生保証して貰おう。何たって絵は僕の生活であり、生きがいでもあるんだから。それを取られるんだったらそれくらいして貰わないとね。 独りになって歩きながら、こんな事を延々考えていた。僕って結構陰湿な奴なのかもしれない。でもいいや、それくらいじゃなきゃあんな我侭王子とは付き合っていけないと思う。 しばらくそうやって歩いていて、不意におかしなことに気が付いた。
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