日帰り冒険記

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しかしここで失神してもパニックになっても何にもならない。僕は何とか気を静め(とは言っても全然静まってなんかいないんだけど)取りあえず姿勢を低くしたまま後ろを振り向いた。まずは状況を把握しなくてはならない。辺りの様子をうかがってみる。 しかし、やっぱりと言うか何というか、変わったものは全く何も見えなかった。 いや。 見えないというか、見ることが出来ないんだ。何かがいるのは解る。でもそれはただ単に僕に見る力が無いというだけだ。――それこそ、お化けか何かを見てしまうときのように。 誰だよ、『可愛いもん』だなんて言ったのは。血がダラダラだれてんですけど。めっちゃ痛いんですけど。しかも誰がすぐ助けてくれるんだよ!誰も来ないじゃないか、ブレストとエリクは何やってんだ?あの役立たずッ! ホントに泣きたくなってきた。 けど、こうなったらもう、自分を守るのは自分しか居ない。 僕はベルトにくくりつけていた短剣を抜いた。立つのは危険かもしれないと思い座ったままでそれを構える。こんなの持つの、何年ぶりだったかな。思い出せないのが非常に不安だった。 「お前は一体何なんだ!なんか恨みでもあるのかよ!」 声が震えるのを抑えて、それに向かって叫ぶ。ほとんどヤケだ。 「出て来いよ卑怯者!」 そう言って、しばらくして。 ふっ、と空気が動いた。 いましめが解かれたかのように、強烈に強い風が森の中を駆け抜けていった。あまりの強さに思わず目を閉じる――。
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